月刊木村:清須市で営む塾での日々

相伝学舎という塾を経営しています。好奇心の格差時代に、大学受験を通じた成功体験の場を提供することが使命です。

大学受験、直訳か意訳か

Nothing is lost if it doesn't work.

という英文は直訳すれば「それがうまくいかなくても何も失われない」という意味になります。これが学校のテストで出題されて、模範解答が「実際にうまくいかなくとも、もともとさ」となっていて、前半は良いとして後半が「もともと」という日本語になっていないとバツ、ということで私の生徒もバツを食らっていまして「先生はどう思いますか」と意見を聞かれました。

大変できる生徒なので、そりゃあなたがそう書いたならそれが正解でしょう、というのが率直な感想ですが、大学受験的に考えてみます。

大学入試の和訳問題の採点基準は調べると意外と公開されています。興味のある人は「英語 出題意図 大学」などで検索してみてください。英語の出題意図を見てみるとおおむね「構造理解」「英文中での意味の理解」「知らない単語の推測」あたりに落ち着いています。なので受験生としては与えられた英文の構造を正確に把握して、まずは直訳をしてみて、直訳だけを読んだ人が意味を理解出来ないような日本語になってしまった場合には、直訳から離れつつも英文の意図から離れない範囲で意味を訳していくという作業になります。

ではこの観点からみてみましょう。

一応文脈を書いておくと全体は会話文で

A「俺はいろんな人に愛想を振りまいて、それが連鎖することでこの街に愛が再び戻ってきたらいいなと思っているのさ!」

B「それは理論上そうかもしれないけど実際うまくいくとは確信もてないなあ(I'm not sure it works in practice.) 」

A「Nothing is lost if it doesn't.」

です。まずは「うまくいかなくとも、何も失われない」という直訳を作ってみます。これで日本語として意味が通じなければ日本語がおかしいという理由で減点の恐れがあるのですが、これで通じないことはないでしょう。東大で出題されたら、何か意図があるのかと思って考えるかもしれませんが・・・

これにたいして学校の模範解答である「実際にうまくいかなくても、もともとさ」という訳はたしかに、雰囲気が出ていて読みやすいと思います。また、辞書を引いてみると、loseのところに You've got nothing to lose by trying this new medical treatment.「だめでもともとだから(だまされたと思って)この新しい治療法を試してみたら」という例文があります。形容詞のlostだとAll is not lost.「すべてがだめになったわけではない」という例文があります。

でも、「もともとさ」という訳が絶妙な訳だとしても、それは直訳を間違いだとする根拠にはなりません。

これがHe was lost.(彼は道に迷った)という意味で使われているところを「彼は失われた」なら、全力でバツをつけていいと思うんですが、与えられた英文のlostにそういう特別な意味は感じられません。

学年の1割近くが東大・京大・国立医学部医学科に合格するその高校において(先生基準の)正解者が一人もいなかったというのが私のなかで決定打。 生徒たちに誤りはないでしょう。

清須市の大学受験 相伝学舎
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