焼き海苔のサクっとした食感や、焼き肉焼き魚等のかみ応えのある食感は変化がないという点で単調です。そこでこれらの単純な食感に変化を与えてみると味の奥行きが深まることがわかります。
たとえば焼き海苔はご飯とともに口に含みますと、海苔のサクっとした食感とご飯のやわらかい食感が重なって、それぞれを単独で食べるより美味しく感じます。あるいは、コロッケなどは外がサク、なかがフワフワという点で自分自身に複数の食感を内包していますが、このことを考慮すると同じ揚げ物であるハムカツと比べると食感自体のもつ美味しさが強調されて理解できます。
デザート類でも同様です。マンゴープリンをそのまま食べるとプリンのプルプルした食感に終始しますがそこにミルクソースをからめると、プルプルした食感がソースとあわさることによって、プリン単品では口の中で忙しく動き回っていたプリンの断片がまとまりを持ちはじめ、違和感なく舌から喉へと通過していくようになります。
さらに高度な変化として温度変化もあります。アイスクリームを単品で食べると味も食感もひたすら単調ですが、そこに熱いコーヒーをかけると、複数の味が併走しつつも最終的には合体し、食感においても固形物が液体によって溶かされながら口のなかで「味」として変化していくのみならず、冷たいものと熱いものが同時に存在し最終的には一つの温度に収束していく過程でも多様な変化が見られ、味の奥行きはとても深くなります。
食感の変化は重要です。
カレーと一緒に福神漬けやらっきょうを食べることが多いのはカレーの味としての単調さをリセットするだけでなく、食感としての単調さもまた一緒にリセットされるからでしょう。鰻重における香の物や、寿司におけるガリも同様の役割を果たしています。
私たちは味を感じるときに味それ自体だけではなく、食感や温度といった要素を考慮しながら、最終的に美味しいとかまずいとか判断しているのです。