前編と中編から続きます。これで最後。
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歴史に学ぼう、強右衛門って何者?、メンタルどうなってる?、大義名分がある、自分にとっての大義名分は何?、日本の貧困問題・格差社会って本当にあるの?
ときて、実際に「希望格差社会 (山田昌弘、ちくま文庫)」を読んだところ、考えていたことがずばり書かれていました。超ざっくり言うと「日本でこれまで機能してきた教育システムが崩壊し、希望格差が生じている」ということです。
希望格差社会
教育システムというのは、中学校卒業、高校卒業、大学・専門学校卒業、というタイミングで国民が選別されていく仕組みのことで、山田教授はパイプラインと呼んでいます。選別というのはトーナメント勝ち上がり的な意味ではなく、大卒なら企業の総合職だし、高卒なら一般職に就職できるよね、という意味での選別で、これが崩壊しているというの大卒でも総合職にありつける割合が減ってきたということです。幼少期からこういう社会を知って育った今の20代〜30代の世代において、「努力してもダメなんじゃないか」という希望の格差が生じている、という主張です。
山田教授は「希望格差」と述べていますが、言いたいことは一緒です。この問題の根源が、現実社会と今の社会システムのズレにあるというのも分かります。さらに、ずばっと切り込んだ本があって、「学力と階層 (苅谷剛彦、朝日文庫)」です。
(調査した本たち)
苅谷氏はオックスフォード大学の教授で、この著作では社会階層ごとに学習活動や態度の分析を統計的に分析しています。たとえば、「朝食を食べる」「行ってきます、ただいまの挨拶をする」「決まった時間に寝る」などの生活習慣がどの程度学力に影響するのかという分析や、住んでいる場所によってどの程度影響するか、という階層や学力に影響するものは何か?をかなりスリリングに分析して、問題は何か?どう対処すべきかを述べています。この本はかなり重要なので、いくつか抜粋しますが、本のまとめなので面倒な人は、↓にある「私ができることは何か」にとんでください。
まず、現代の社会の性質について。
過去に習得した知識や技術よりも、学習能力が人的資本形成の中核になる。端的にいえば、学習能力が「資本」となる社会の登場であり、「自ら学ぶ力」=「学習資本」と呼べるものの形成・蓄積・転換が、社会のあり方と人間形成に広く、深くかかわるようになる」
土地や金を持っている人間が強いという資本主義社会が変化して、「自ら学ぶ力」を持っていることが人間としての競争力を高めるということです。インターネットの登場で、誰でもアイデアさえあれば小額の資本(それこそ数万円)で成功することが出来るようになった現代を、抽象的に言い換えています。このような時代だからこそ、
学習能力が人的資本形成においていっそう重要になり、しかもそのことが人びとによって意識されるようになるのは、柔軟に変化し適応性を発揮しながら人的資本の中身自体を変えていく必要性が求められるようになったからだ。
とのべ、さらに、
学びたいから学ぶのではない。学ばなければ生き残れないから学ぶ。それが、市場競争型の生涯学習社会である。この仕組みの下で、利口な人的資本家が、人的資本を自ら増殖させ続けるメカニズムが作動する。しかも、彼ら・彼女らの一部は、学ぶことを苦痛と感じず、楽しみに変える高等な学習能力も得ているのである。
という。たとえば、私がかつて勤務していたIT業界というのは特に外資系のメーカーにおいて、特定の営業スキルを得てそれを別の会社に高値で売る=転職することで高い年俸を得ていく人が多く、現実を捉えていると言えます。
さらにここからが重要で
個人の学習能力には明確な差異がある。しかも、その差異は、子供が生まれ育つ家庭の環境や階層と密接に結びついている。(中略)実証的には示せないが、もし自己反省的なメカニズムを含んだ学習能力に階層差があるとすれば、初期の学習能力の差が、人的資本形成の差を拡大していくと予想できる。
これは中編で私が述べた、知的欲求の格差が拡大するという点と符号します。 また、「この能力は個人によって差があるから、同じ学校で教育を受けても学習する子はどんどんするし、しない子はしない=格差が広がっていく。さらに社会に出ても、勉強が出来る子がよい仕事につく機会が多く、よい仕事ほど成長する可能性があるためさらに格差が広がる」ということを述べています。そして、フリーターに見られるように、
教育競争から早めに降りてしまう人びとほど、皮肉にも学習能力を磨き上げるための別の機会を与えられていない人びとである可能性が高いと考えられる。
知的欲求の格差の問題を、マクロに捉えたのが「希望格差社会」、ミクロに捉えたのが「学力と階層」です。これで、私が問題意識を持っている知的欲求の格差が、私の思い込みではないと確信出来ました。
苅谷教授や山田教授は、大学の先生なので政策や教育システムというかなり大きい枠で考えていますが、私はいち民間人ですので、ビジネスを通じて出来ることは何かというのが次のテーマです。
格差にたいするビジネスでのアプローチ
知的欲求、山田教授の言葉を借りれば「希望」を与える、といったらおこがましいですが、生じさせるにはどうしたら良いかというと、ぱっと思いつくのは「付き合う人を変える」ということです。自分の性格や考え方を変えるというのはとても難しいですが、付き合う人が変わればあっさり変わっていきます。もちろん、自分が「こうなりたい」イメージがあるというのが前提で、少しでもそういう意欲があれば、あとは既にそのイメージを実現している人と親しくすることでどんどん吸収できるというのが私の考えです。
たとえば、筋肉をつけたいと思ったら、日本中のボディビルダーが通うゴールドジムに入会すべきということです。なぜなら、ゴールドジムに通えば「ありえないくらい筋肉をつけている人は、これくらいのトレーニングを普通にするのか!」という衝撃を受け、自分の考えの方向が間違えていたことに気づくからです。付き合う人を変えるというのは、「(今までの自分の考え方では思いつかない)ある考え方をすることが、普通」の環境に身を置くということです。
これを教育にあてはめると、たとえば既に探求学舎さんという塾で、面白いことをやっていますがこんなイメージです。
強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話 / 寳槻 泰伸 | STORYS.JP
この著者が開いている「探求学舎」という塾で、「オヤジ」の教育を再現しているのだとか。これはかなり面白いと思います。
ただ、面白いとはいえ、いきなり私が出来るはずもないので、「私が出来ることは何か?」を考えると、自分の人生の延長と、取り組みたい課題を結びつけるという作業になります。
私ができることは何か
トレンドマイクロに勤務していたときは、セキュリティ製品のセールスが仕事でしたが、この仕事の経験が教育に結びつくとは考えられませんので却下。そこで、かつて私が大学時代に情熱を注いでいた大学受験の英語講師はどうか?と考えると、これはかなりいい線行ってます。
まず、苅谷教授の言葉を借りるまでも無く、知的欲求の格差は0才〜22才までの教育のなかで取り組むべき課題だからです。
その上で、「知的欲求を高めたい」というニーズがあったとして、その解決を手伝うには「知的欲求の高い人の集団に導く」という仕事を提供することになります。私が知る限り日本で知的欲求の高い人の集団といえば、いわゆる難関大学と呼ばれる大学です。ニュースや記事を見ていてビジネスで活躍しているというのは人Fランを卒業している人がほとんど居ない一方で、東大・京大・一橋・慶應・早稲田のどれかを出ている割合が非常に高いのです。
かつて、私が通った慶應大学で知り合えた友人は知的欲求や好奇心が強い人ばかりで、そういう人と今もお付き合いできているということが私の人生にもたらす影響は、経済価値にしておそらく数億円レベルに行くんじゃないかと思います。
また、その後トレンドマイクロで知り合えた職場の同期や先輩後輩からも多大な影響を受けましたが、そういう人と出会えたのも山田教授の言うパイプラインに乗っていたからだと言えます。
知的欲求の高い人の集団は、前述のとおり学歴でフィルターをかけると見つかりやすいのですが、学歴フィルターをかけなくても、ある特定の会社に集まっていることがあります。冒険心を兼ね備えていて、名も知られていない小さなベンチャー企業でチャレンジしていく人たちがこれにあたります。だから、知的欲求が高い=学歴が高いというわけではないのですが、日本に存在する400万社の会社のなかからこの集団を見つけるのは極めて困難で、効率的に出会うには大学進学が手っ取り早いのです。
これが、高校進学塾ではなく、大学進学塾を開きたい理由です。難関大学に行く手伝いをしたいわけです。
さらに私が開く塾自体も、そういう知的欲求の高い集団にしていきたいというのが目標です。
最後に、高校時代を懐かしむ
かつて高校時代に通った大学受験の個人塾がありました。高校2年まで勉強をさぼっていた私は、この塾の先生に出会ったことで人生が変わりました(これを感謝とともにつたえると「違うよ、キムが頑張っただけだよ」と先生は言います)。授業が面白くて、わかりやすくて、その塾に通っている生徒はみんなすごく勉強が出来て、その上高い目標を持って頑張っていました。そこでたくさんの刺激を受けました。
高校2年間サボっていたくせに、大学はブランドのあるところじゃなきゃいやだ!というわがままを実現すべく、14ヶ月その塾に通って勉強して、最終的には勉強のしすぎで10円ハゲが出来ましたが、なんとか受験は成功しました。
そして、18才の春「いつか自分も、自分がしてもらったように、だれかの人生に良い影響を与えられるような仕事をしたい」と思いました。
あれ?歴史を勉強しなくても、10年前にもう答え出てたんですね〜
■本の紹介
衝撃の一冊です。